刀や槍をとって戦うことが無くなった今日、様々な日本の武術が失われた、もしくは形骸化した。
とはいえ、いくつかの主要な剣術流派には、今日でもその技や理合いが正しく伝えられているようだ。
まさに剣術は日本の武術の中心であるが、その頂点の一つが、上泉信綱の新陰流である。
今でも各地に、柳生新陰流などいろいろな派生流派が残されており、学ぶ人も多い。
夢想権之助が杖術を編み出した時代には、すでに新陰流の名声が広まっていたことは間違いない。
夢想権之助は宮本武蔵と戦ったと言われるが、その武蔵は柳生新陰流と交流があった。
普通に考えると、夢想権之助が新陰流を知らなかったはずがない。
神道夢想流杖は新當流だけではなく、新陰流の影響を受けていた可能性もあるだろう。
それはともかく、新陰流ほど理合いや勝ち口が技術体系として残されている、もしくは公開されている剣術はめずらしい。
全くの門外漢の自分でも、書籍や動画などでそれらを知ることができる。
命のやり取りをしていた昔なら絶対に公開されなかったような技も、今は見ることができるのだ。
一方、神道夢想流杖ではそのような体系的な技術要素が失われたのか、あるいは隠しているのか、稽古といえばただ型を繰り返すのみ。
書籍で学ぶにしても技術書と言えるものはほとんどなく、松井健二先生の「杖道打太刀入門」だけだろう。
他の書籍はただ、型の写真と説明が延々と続くばかりである。
とはいえ杖に限らず、ほとんどの武術や武術書はそうなので、新陰流だけが特別と言えるかもしれない。
なんにせよ、新陰流は非常に興味深い流派であり、その理論を学ぶことは杖の上達にとっても必須だと考えている。
わざわざ新陰流ほどの名門が、その理合いを惜しげもなく公開してくれているのだ。
しかもそれをただ同然で知ることができるのに、学ばない理由がない。
ということでしばらく、前田英樹著「剣の法」について研究してみたいと思う。
前田先生は大学の教授であり、新陰流を四十年以上学ばれているとのこと。
「剣の法」には新陰流の理論が、これでもかというぐらい詳細に書かれている。
しかし、検索してもあまり評判らしきものが出てこないのは、この本がマニアックすぎるのかもしれない。
内容が素晴らしいだけに、残念である。