孤杖伝

神道夢想流杖術研究

2023-01-01から1年間の記事一覧

「眉間」孤杖伝4

剣術道場の師範ではあったが、幸之助は人を斬ったことはなかった。 そもそも当時においても、人前で刀を抜くこと自体が、まれだった。 侍が一度抜いたら、もう後には引き下がれない。 相手を斬り捨てるか、自分が斬られるか。 刀を抜くというのは、それほど…

「廃刀令」孤杖伝3

浪人が歩いていた。いや、浪人だった、というべきか。 侍という身分が無くなった以上、浪人もいなくなったはずだった。 しかしかつての浪人のように、男は太刀を腰に差していた。 すれ違う者たちが太刀を見ているのがわかった。しかし男は気にした様子もない…

「旅籠の夜」孤杖伝2

夜が更け、町にはほのかな灯火がともる。 「よかった。」 日は暮れてしまったが、なんとか山科の町までたどり着き、 知り合いの女将がやっている旅籠に泊まることができた。 そこでようやく咲紀は、あの山道での出来事を思い出す余裕を得た。 突然出てきた大…

「風に導かれし者」孤杖伝1

風が鳴っている。秋の深まりを告げるような、冷たく乾いた風だった。 男が一人、伏見の山道を歩いていた。まだ若い。長い髪を後ろに束ね、着流しの裾が風になびく。 旅人の装いをしているが、背中には小さな荷物のみ。手には、細長い棒が握られている。護身…

一流の美しさ

普段はまったく野球を見ないのだが、日本が優勝したWBCだけは欠かさず見ていた。 選手も大谷選手ぐらいしか知らなかったのだが、一人おっと思った選手がいた。 大活躍した吉田選手である。 注目したのはそのスイングで、初めて見た時は驚いた。 体の回転を使…

「剣の法」研究 その四 移動軸を切り崩す

陰流の猿廻が「相手より遅れて動き」かつ「躱さずそのままで」勝つということについて述べた。 そして、陰流の理合いは、当然ながら新陰流に受け継がれている。 「剣の法」によると、新陰流では猿廻に限らず「移動軸を切り崩す」太刀筋が流派の根本原理とな…

「剣の法」研究 その三 新当流と陰流

「七人の侍」という映画は黒澤明監督の名作だ。 そして「剣の法」では、この映画のとあるシーンについて書かれている。 映画の前半の方での武芸者と浪人の立ち合いが、なんと新当流の勝ち口を表しているらしい。 一体、どのような立ち合いか。 武芸者は半身…

「剣の法」研究 その二 反発の原理から抜ける

さて、「剣の法」のはじめの方は、初期の日本刀の出現などについて書かれている。 これはこれで面白いのだが、技術論と離れるので触れない。 次に書かれているのは、反発の原理から抜けるのが武術であるということだ。 これはよく言われることなので、理由も…

「剣の法」研究 その一 新陰流

刀や槍をとって戦うことが無くなった今日、様々な日本の武術が失われた、もしくは形骸化した。 とはいえ、いくつかの主要な剣術流派には、今日でもその技や理合いが正しく伝えられているようだ。 まさに剣術は日本の武術の中心であるが、その頂点の一つが、…

永遠の縦

経験者であればわかるとおもうが、ゴルフはシビアなスポーツだ。 ボールは止まっているにもかかわらず、コースで完璧に打てることはほとんどない。 プロでさえ、ドライバーでOBを出すことがあるのだ。 しかしプロはOBを出しても80を叩くことはないが、アマチ…

一之太刀

夢想権之助は新當流を極め、武蔵に敗れて修行の後、杖術を編み出したと言われる。 新當流といえば、塚原卜伝で有名な鹿島新當流があり、卜伝以外にも多くの剣豪を排出した。 それだけ、新當流が優れていたということだろう。 そして神道夢想流杖術の技や理合…

一招を恐れよ

今思うと不思議だが、若い頃は剣術や棒術などの、得物を用いる武術にあまり興味がなかった。 漫画などの影響か、空手や中国拳法など素手の武術が好きで、実際に習ったりした。 そしてかじった程度で、フルコンが強くて寸止めは弱いだの、太極拳は使えず八極…

寝屋の内

古流を習って、長い間その意味がわからなかったのが、寝屋の内という形である。 打太刀に対して正座で待ち、太刀と杖を合わせ、杖が目間を攻め、くるぶしを打つという形だ。 寝屋の内というぐらいなので、寝込みを襲われるとか、そういう際の稽古なのかと考…

杖の定寸

以前、神道夢想流杖術において杖の長さは決まっているのか、それとも決まっていないのかという話をどこかで見た。 それについては、松井健二先生の著書「自己を磨き人を育てる」の中で、乙藤市蔵先生が「杖に定寸があるとは知らなかった」と言われた、と書か…

悲しみの杖

杖、つまり神道夢想流杖術は悲しい。 真剣に杖で立ち向かうことは圧倒的に不利で、本来ありえない。 刀と杖とでは、相打ちにすらならないのである。 しかし黒田藩の下級武士は、杖で真剣を持った侍を取り押さえる必要があった。 彼らは死を覚悟していたに違…

真剣勝負のための型稽古

古流、つまり神道夢想流杖術は武術である。 目的は太刀を持った相手との戦いにおいて、無傷で相手を制することだ。 形を間違えずに、順番通りにやることが古流の目的ではない。 西岡常夫先生は著書「杖道自戒」の中でこうおっしゃっている。 「武術修練の目…

杖道と杖術

始めた歳をはっきり覚えていないのだが、杖道を習って二十年以上にはなる。 未だに続けられるのは、先生や会の方々、そして家族のおかげであり、改めて感謝したい。 そして杖道、というより神道夢想流杖術、つまり古流の面白さで今まで杖を続けてきた気がす…